大判例

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大阪地方裁判所 昭和28年(ワ)588号 判決

原告 田中正幸

被告 栗江興業株式会社 外一名

一、主  文

被告等は原告に対し合同して金二十三万円及びこれに対する昭和二十八年三月一日より右支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は被告等に対し各金六万円の担保を供するときは夫々仮に執行することができる。

二、事  実

原告は主文第一、二項同旨の判決を求め、その請求の原因として被告会社(当時株式会社栗田商店と称す)は昭和二十七年八月三十一日訴外東栄産業株式会社宛に金額三十万円、満期同年十一月二十七日、振出地支払地共大阪市、支払場所株式会社大阪不動銀行本店なる約束手形一通を振出し、同訴外会社は同年九月十五日被告海原一人に、同被告は更に同月二十日原告に、各拒絶証書作成義務免除の上各手形を順次に裏書譲渡し原告は現に右手形の所持人である。よつて原告は満期に支払場所にのぞみ右手形を呈示して支払を求めたところ、支払を拒絶せられた。而してその後右手形金に対し金七万円の内入弁済があつたので被告らに対し右残金二十三万円及びこれに対する昭和二十八年三月一日より右支払済まで年六分の割合による法定利息の支払を求めるため本訴請求に及んだと陳べ、被告海原の抗弁事実を否認した。<立証省略>

被告会社訴訟代理人は

(一)  本案前の抗弁として、本件訴を却下するとの判決を求め、その理由として原告は本訴において当初栗田末太郎個人を被告としていたのを途中において被告の表示訂正の申立をして被告を栗江興業株式会社と訂正したが、右は栗田末太郎を被告とした訴を明かに人格を異にする被告会社に対する訴に変更したものであり、当事者を変更する訴の変更であつて許さるべきではないと陳べ、

(二)  本案の答弁として、請求棄却の判決を求め答弁として原告主張事実中株式会社栗田商店が商号を変更して被告栗江興業株式会社となつた事実は認めるが、その余の原告主張事実はすべてこれを否認すると陳べた。<立証省略>

被告海原一人訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として本件手形を原告に裏書譲渡したことを認めると陳べ、抗弁として本件手形の満期後原告及び被告両名協議の上被告会社が原告に対し直接本件手形金の支払をなし、原告は被告海原に対しては償還請求はしない旨の特約が成立した。かりに右特約がなかつたとしても現存債務額はこれを争うと述べた。(民訴法第一三八条の擬制陳述)

三、理  由

一、被告会社の本案前の抗弁についての判断

(イ)  当事者の変更による訴の変更はわが民訴法上これを許さないものと解するを正当とすべく、このことは同法第二三二条の法意より明かで、訴の変更は同一当事者間において請求の趣旨原因の変更としてのみ許されるものといわねばならない。

(ロ)  ところで当事者の変更と当事者の表示の訂正とはこれを区別しなければならない。前者は確定された当事者を変更する場合に生じ、後者はその前提たる当事者の確定の問題である。すなわち、当事者の表示の訂正は確定された当事者をより適正な表示に更正するにすぎない場合に生ずるもので、同一人格者間の問題であるに反し、当事者の変更は別人格者間に生ずる問題である。而して具体的に当該訴訟において何人が当事者であるかをいかなる標準によつてこれをきめるか。この点については原告又は裁判所の意思によつて定まるとする意思説、訴訟上当事者として振舞い又は取扱われた者が当事者であるとする行動説或は訴状の記載により定めるべしとする表示説等が相対立しているが、当裁判所は最後の見解を最も妥当なものと解する。すなわち、訴状全般(単に当事者の表示欄のみでなく請求の趣旨原因その他)の記載の意味を客観的に解釈して何人が原告であり、被告であるかを決するを相当とすべく、従つてもし右規準によつて確定した当事者が当事者能力を有しない場合(例えば死者、虚無人)はその訴は却下を免れず、又当事者として氏名を冒用している場合は、被冒用者が当事者であつて(被冒用者は再審上訴により裁判を取消しうる)冒用者は当事者でない。而して右の場合当事者が実在するか否か、或は冒用者か被冒者かを決するについても論理的には当事者の確定がその先決問題でありこの先決問題が決つて而る後にこれらの問題が定まるのである。

(ハ)  今当事者の表示を甲より乙に訂正する場合に、それが単に訂正に止るか、或は当事者の変更を来すかを判定するにも、当事者の確定がその先決問題である。かくして確定された被告が甲である場合、これを乙に変更することは当事者の変更であつて許さるべきではないが、もしかくして確定された被告が乙である場合、訴状の被告の表示に誤りがあつてこれを乙と訂正することは、当事者に変更を来さないから許さるべきである。

(ニ)  今これを本件についてみるに、原告は被告会社に関する限りにおいて訴状添附甲第一号証(写)の約束手形の振出人に対し振出人としての責任をとうべく本件給付の訴を提起したものであることは訴状全般の記載上明白であり、(殊に請求原因には本件手形の振出人は株式会社栗田商店なる旨記載あり、被告会社が右手形を振出した旨記載あり)右約束手形には振出人として「株式会社栗田商店代表取締役栗田末太郎」の記名捺印あり、原告が同会社に対し本件訴訟を提起せんとして大阪法務局に同会社代表者の資格証明を得んとしたところ同会社は右手形振出直後本店を移転し且つ商号を「栗江興業株式会社」と変更して、登記簿上も事実上も右約束手形記載の場所に「株式会社栗田商店」なるもの存在しなかつたので原告は同会社は存在せないものと錯覚しやむなく訴状被告欄に「株式会社栗田商店こと栗田末太郎」と表示して本件訴訟を提起したところ、その後右会社は前記の如く本店を移転し且商号を変更して存在すること判明したので当該表示を「株式会社栗江興業株式会社右代表取締役栗田末太郎」と訂正を申立てたことは本件記録上明かである。而してかゝる場合は当初より原告が右手形の振出人を被告とする意思を有していたことを認めうることはもちろん、訴状の記載上も振出人を被告としたものと解しうべく、すなわち本訴は栗田末太郎個人を被告としたものでなく振出人たる「株式会社栗田商店」商号変更後の「栗江興業株式会社」を被告としたものと解せられる。然らば本件被告の表示の訂正によつて被告の同一性は維持せられているのであつて、人格の変更を来さないものといわねばならない。被告会社訴訟代理人は本件において確定されたる被告は栗田末太郎個人なりとの前提に立ちこれを被告会社に訂正するは別人格者に対する起訴なりというはあたらないから、被告の抗弁は採用出来ない。

二、本案の判断

(イ)  被告栗江興業株式会社に対する請求について、

当事者間に争のない株式会社栗田商店が商号を変更して栗江興業株式会社となつたこと、成立に争のない甲第一号によれば原告主張事実はすべてこれを認めることが出来る。

(ロ)  被告海原一人に対する請求について、

本件手形を原告に裏書譲渡したことは被告の自認するところであり、その余の原告主張事実も方式並に弁論の全趣旨により真正に成立したものとみとむべき甲第一号証によりすべてこれを認めることが出来る。而して被告が抗弁として主張する事実に付ては何ら立証がないから到底これを認めることが出来ない。

而して以上認定の原告主張事実によれば被告両名に対する本訴請求はいずれも理由ある(原告は本件手形金についてその後内七万円の内入弁済があつた旨主張する)ので、被告らは合同して残金二十三万円及びこれに対する本件訴状が被告らに送達された以後である昭和二十八年三月一日より右支払済まで年六分の割合による金員の支払義務あるものといわねばならぬ。よつて右支払を求める本訴請求は正当としてこれを認容し民事訴訟法第八十九条第九十三条第百九十六条を適用し主文のように判決する。

(裁判官 増田幸次郎)

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